地獄の沙汰も課金次第

 Hellgate: LondonはFlagship Studiosの制作によるアクションRPGであり、2007/10/31に発売されている。同社は新興ながらBill Roperを中心としたメンバーがBlizzard Entertainmentから独立して興した会社の為に、そのデビュー作としてのこのゲームは大きな注目を浴びていた。内容的にも2000年発売の2以降、長い間続編が待たれているDiabloの新作に近い位置付けの作品として捉える向きも多く、その意味でも大々的な扱いを受けていたゲームでもある。


 当サイトでもジャンル的に通常ならば取り上げないタイプのゲームなのだが、FPS視点にしてそれ風にもプレイ出来るクラスが存在する、共同してのマルチプレイ(Coop)要素が強調されているといった点から、プレビューとして情報を追ったりもしていた。しかし結果的には途中から私自身の興味の低下もあって各種情報を集める事も無くなってしまい、未だにゲームを購入してもいない。


 今回はHellgate: Londonに関連してそのゲームの内容では無く、その新しい販売形式に対する感想や、発売後の一連の顛末について書いてみたい。



 まずゲームの評価についてはあまり芳しい言葉は見られず、点数としては70点平均という結果に終わっている。年末のベストゲーム等にもノミネートされず、前評判からしたら非常に寂しい結果と言わざるを得ない。しかしこの評価の中には多分にバグの多さという問題が含まれており、純粋なゲームとしての評価が見え難くなっていたのも事実である

 そのバグの多さに付いては、日本語ではGame Watchにてゲーム内容の紹介と共にバグに付いても詳しく書かれているレビューが出ているが、これを見る限りではゲームが進行出来なくなる様なバグも多々存在しており、相当に酷い状態であった事が判る。発売前に行われていたベータテストでも、「延期のアナウンスが無いけど、現状では到底発売出来るようなレベルじゃないだろう」という感じになっていたらしい。
 この辺の事情に付いては発売後にBill Roperに対するインタビューも掲載されており、”何故こんなバグだらけのゲームを発売したのか?”といった突っ込んだ質問も行われている。以下にその内容を一部抜粋してみる。全文を読みたい方は以下を参照(英語)。
Flagship CEO Bill Roper talks Hellgate regrets
Q&A: Bill Roper opens up on Hellgate

 ”何故こんなにバグが残ったままだったのか?”に付いては、単純に「十分なテスト期間が取れず、またあまりにも多くの発見されたバグを修正するだけの時間も無かった。」としている。では”何故その状態で延期せずに発売したのか?”だが、これは「そういう契約を結んでいたから」だそうだ。(この場合は北米と欧州を担当のEAとの契約の意味になる)。


 「ゲームのテーマに相応しいとしてハロウィンに発売するという契約内容で、我々もそれに向けて最大限の努力をした。その日に合わせて販売代理店側も宣伝に力を入れてくれているからだ。」


 「もしあと発売までにもう三ヶ月の期間が有ったならとは感じている。しかし我々の様な新参の会社には、発売を待ってくれと言えるような力は無い。過去に勤めていたBlizzardの様な強い発言権のある大手とは全く事情が違うし、(よく比較されるゲームである)Guild Warsの様にバックにNCsoftという緊密な関係を持った代理店が付いている訳でもない。」


 つまり製作資金を出してくれている代理店であるEAの意向には逆らえない状況にあったという話になる。何故EAがバグ修正を待たなかったのかについては、当ブログの記事「宣伝にかける金」辺りに書いた事情からの判断だと思われる。他に根本的に開発が遅れた原因としては、「正直に言って、我々はあまりにも多くの事にトライし過ぎた。Vista&DirectX 10への対応、シングルプレイとマルチプレイの同時開発、七ヶ国語への対応、自分達で独自の3Dエンジン及び製作ツールを一から開発等々。結果的に自分達は良くやったとは思うが、野心を持ち過ぎたと感じている。」



 さてここから本題に入るが、ゲームの開発中に起きた一番の事件と言えば、課金システムの導入というアナウンスだろう。パッケージ版を購入すれば(発売当時は$49.99)、シングルプレイ及び無料でのマルチプレイが遊べる。しかしそれ以外に課金によるMMOG的なコンテンツが用意されており、会員になって月額$9.99(現在北米での料金)を支払う事で、プレイ上の特典が得られる他に新しいエリア等の専用コンテンツにもアクセスが可能になるという方式である。


 しかしこれは大きな反論を巻き起こした。Bill Roperはこの件がユーザーの反発を受けたのが製作過程で一番の意外な出来事であったとしているし、課金システムに関連する再三に渡る説明が幾つものインタビューや公式コメントで行われている。
 「月額課金に申し込まないユーザーには基本的な部分しか遊ばせない、というゲームであるかの様な受け止め方があるようだが、それは全くの誤りである。パッケージ版だけで一つの独立した完成されたゲームであり、30時間程度のシングルプレイと、十分なボリュームのマルチプレイにアクセス出来る。これはこれで一つのゲームであると考えてもらいたい。」


 「その上で我々としては、更に遊びたいという人の為に課金コンテンツを用意している。この方式により短期間に新たなコンテンツのアップデートが可能になるし、MMOGにおけるコミュニティの部分も充実させられる。また24時間体制でのサポート等も配備出来る。従来のやり方だと定期的な拡張パックのリリースでコンテンツを拡張するという方式だったが、このやり方ではその間に進展が無いという状態になってしまう。もっとリアルタイムでの追加コンテンツによる面白さの拡張を目指して、この様なシステムを採用した。」


 だがこの様な説明を行った後でも反発は収まらず、従来通りの拡張パックのシステムを採用して月額課金は廃止すべきだという署名運動も起こっていた。そして最初にアナウンスされたEliteという名の課金システムからは若干トーンダウンした形ではあったが、実際にこのままのパッケージ版プラス月額課金という形態でゲームはリリースされている。(ただしバグの問題から実際の課金がスタートしたのはかなり経過してからになった)。



 私はMMOGに詳しくないのでこの様な形態のゲームが他に存在しているのかは分からないが、独特な販売形態であるのは確かである。この方式には利点も欠点もあると思うのだが、私自身もこのシステムによって結構購買意欲を削がれた人間なので、先に欠点について書いてみたい。


 FSS側の説明は理屈としては正しいと思うのだが、人間は理屈だけでは動かずそこには心理的な面が強く影響している。FSSの論理は「パッケージ版は100%の出来で、課金の方は120や150%の出来である」という意味に取れる。しかし実際には100%を超える物は現実には存在はしない。つまり彼等が課金コンテンツに力を入れれば入れるほど、相対的に無料のコンテンツの価値は下がって行く。もっと具体的に言えば、課金コンテンツがこんなに充実していますよとFSSが力説するほど、「ああ、やっぱり無料の方には力を入れていないという事なんだ」というイメージが強くなってしまう。

 そういった課金コンテンツに力を入れるというFSSの方針はある意味では正しい。もし無料コンテンツの方も追加で充実させてしまうと、金を払っている会員ユーザーから「金を払っている自分達が蔑ろにされている」と不満が出てしまうからだ。金を払っている会員には、それだけの価値があるという差別化をしないとならないのは当然である。しかしそれは課金していないユーザーに対して、ネガティブな印象を与える結果となるのは避けられない。


 要するにこの販売形態だと、原理的にあちらを立てればこちらが立たずで、双方に対して満足を与える事が極めて難しい。これはFSSの能力には関係なく、販売のシステムとしてそうならざるを得ない。2008/01/21には最初の大型アップデートとなる”The Stonehenge Chronicles”がリリースされたが、この追加された新規エリアは会員のみに向けての物となっている。無料コンテンツに対する大幅なアップデートも同時に行われているとは言うものの、やはりこういうのを聞かされると、結局無料で遊べるコンテンツにはゲームが持っている面白さの部分的なものしか含まれていないという気持ちになってしまう。しかしこれを無料コンテンツにも開放してしまっては、金を払ってくれている会員に対しては満足が行かない物になってしまう訳で、その辺のバランスの取りようがない。


 では最初からMMOGの課金コンテンツのみに絞ってのゲームとすれば良かったのか? FSSのインタビューの印象からは、優先順位としてはそうしたかったように感じられる。しかしBill Roperの名前はDiabloのファンに対しては大きな効果を持っていても、MMOGのファンに対してはそれ程の効果は無いと思われ、そうなるとシングルプレイ+通常のマルチプレイというコンテンツを外すのは大きな賭けとなる。

 一番の理想的な結果は、無料コンテンツのみの部分でゲームとして高い評価を受けるケースだと思うが、これもまた上手く働くかというと疑問が残る。仮にこのHGLがパッケージ版だけで、数種類のクラスを使って50-100時間程度もリプレイして楽しめる傑作ゲームになったとしよう。この場合ユーザーはFSSに対して高い評価を与えはするだろうが、その後更に金を払って課金コンテンツにまでアクセスするのかとなるとどうだろう? タップリと遊べたアクションRPGという事でそこで十分に満足してしまい、その後は別の面白いゲームを探して去ってしまう人が大半なのではないかと思える。(元々MMOGが好きな人がそれほど多いとは思えないので)。


 変な話なのだがその意味でこの形態での販売方式だと、無料コンテンツの部分で大きな満足感を与えてしまうのは、課金ユーザーを増やすという観点からはむしろ逆効果になるのではないかという気がする。それもこの販売形態に矛盾を感じる点である。



 現状及び今後のHGLはどうなって行くのだろうか。無料コンテンツに関しては、「既にパッチで大規模な修正が行われているので、発売時にプレイして失望した人も是非再度やり直してもらいたい」とBill Roperも話している。けれども最初に与えたマイナスイメージを解消するのは相当難しい。通常ゲームサイトは最初に書いたレビューを直さないので、今後HGLとはどんなゲームなのかを知りたいと考えた人には、「平均して70点レベルでバグだらけのゲーム」という風に映ってしまう。ちゃんと以後の情報を追って調べるという人の割合は少ないだろう。


 Diablo時代からのファンとして注目していた人の多くは既に購入済だと思われるし、それを知らない一般的なゲーマーにアピールしないと今後の大幅な売り上げのアップは期待が出来ない。しかし宣伝費があまり無い状態でどうやって一般層へとアピールをするのかは難しい問題である。(特に広大で地域差が大きい北米及び欧州では)。なおそれに関連して公式サイトも非常に地味であり、SSは少ないし頻繁に更新がされていないという印象である。新バージョンのデモのリリースも含めて、もうちょっとプロモーションに力を入れるべきだろう。


 パッケージ版として売るのが難しいのならば、課金コンテンツに力を入れてMMOGの部分をアピールして行くというのは当然の流れである。Bill Roperも「課金コンテンツの方は面白くさえ出来れば挽回が可能である。どんな人気MMOGでも初期は様々なトラブルが存在しているものだが、それが解消すれば何事も無かったかのようにゲームは評価されるようになる」と話している。この辺のニュースを追ってみると、韓国でのプロモーションにかなり力を入れたようだ。韓国はMMOGが大変に盛んな国だし、Starcraftの驚異的な人気もあってBlizzardへの注目度も非常に高い。その意味でFSSとしても活動面では有利な立場にあると言える。


 Hellgate: London Celebrates Successful Korean Launchとして、100万アカウントというこの三年間で最大のユーザー数を集めたと言うアナウンスも有った。ただしユーザーコメント等を頼りに詳しく調べてみると、これは単にベータテストの段階で大量のアカウントが登録されたというだけで、実際に課金が始まってからはユーザー数は減少の一途を辿っているようだ。こちらは韓国では一般的なインターネット・カフェでのプレイ人口チャートだが、確かにこれを見る限りでは全ゲーム数の人口の1%を切っている。またこの記事の中のリンクから最新のチャートにもアクセス可能だが、そこでは更に順位を落としているのが判る。

 私の乏しいMMOGの知識だと、例えば日本では皆で一緒にモンスター相手に戦えるタイプのMMOGが人気だが、韓国ではPvP(対人戦)や大規模なギルド同士の攻防という参加者同士で徹底して戦い合うというゲーム性が受けるという話である。しかし開発当時のインタビューではPvPコンテンツには相当消極的だったはずであり、現時点でもその辺が修正されているとは思えない。その点でゲームのクオリティはともかくとして、韓国では受けなかったという事だろうか?


 公式サイトを見るとV2.0に当たる大規模なパッチとして”The Abyss Chronicles”の計画が進んでおり、続く2.1ではPvP要素を大幅に拡張したコンテンツが導入されると宣言している。MMOGでは展開する国別にゲームのシステム自体を変えてその国に合った物にするというのは有るそうなので、韓国での成功を狙ってのPvPの拡張なのかも知れない。(その他の地域では別の形態のサーバーにしたり、サーバーのタイプを選べたりする等)。或いは現状では北米及び欧州での大規模な人口増加は望めそうに無いので、韓国での成功を引っ提げて戻り、その後新たに他の地域での盛り上げを図りたいという意図とも考えられる。


 日本では何のアナウンスも無いままに延期されていたが、担当をバンダイナムコゲームスからエレクトロニック・アーツに変更して夏に発売予定になっている。ただし現在東南アジア地域のHGLでは依然としてV0.7のままの状態で、何時パッチが完成するのかさえ判らない状態とされており、日本語版がちゃんと最新パッチを適用した状態で出されるのかは気になる所である。もし遅れるとゲーム内容が完全ではなくなるのに加えて、遊べるサーバーも日本国内だけになってしまうはずなので、そうなると日本でも失敗になるという可能性が高い。と言うかここまで遅れてしまって、日本でまだ成功の余地が残っているのか自体が疑問ではあるのだが。



 最後にHGLの将来に付いてプラス&マイナスの両面を挙げてみたい。この販売形態の利点としては、後に無料コンテンツとしてのパッケージを再構成出来るというのが大きいと思う。これは今後HGLがそれなりに人気と資金を得て課金ユーザー向けの追加コンテンツを充実させられたらというのが前提だが、そのコンテンツの一部を無料コンテンツの方に還元が可能になる。例えば2年後辺りに全ての課金コンテンツの中から何割かを抽出して、それを加えてパッケージ版のシングルプレイ部分を再構築出来るという意味である。

 通常のゲームでは開発資金的に売った後に大規模な変更は望めず、やるとすれば有料の拡張パックとかDLCになってしまうのが普通である。一方でMMOGがその内容をシングルプレイ化して出すというのも、新たにそのシステムを作らないとならないから困難。しかしHGLでは基本的なシングルプレイのプログラムは既に存在しており、システム面では常にパッチによって修正や拡張もされている。それをそのまま持って来られるので、それ程金も手を掛けずにパッケージ版の内容を作り直せる事になる。更にこれは将来的にはXbox 360の様なコンソールへの移植も出来る可能性を持っている。


 もし出すなら現在のバージョンのイメージを引き摺るのは良くないので、タイトル自体をHellgate: XXXという風に変更して出されると考えられる。既存ユーザーにはパッチでは無く安価な拡張パックとして提供。この様にバグが無くなって、よりバラエティに富んだコンテンツを含んだ充実した内容のゲームとして復活するのならば、その時には購入を考えても良いという人は私も含めて多いはずだ。


 他のプラスとしては既に価格が下がり始めており、これはユーザー数の増加には有利となる。クライアントソフトの様な意味合いで安い値段で購入し、その分の浮いた金で数ヶ月は課金コンテンツを試してみるというユーザーが増える可能性を持っているからだ。そこでユーザーを引き止められれば成功となる。課金コンテンツにはアクセスはしなくても、パッチで修正されたゲームが本当に良い出来ならば、安くなったから買ってみたというユーザーからクチコミで「レビューで言われているほど酷いゲームでは無い」という評判が広まり、それは更にHGLの購入者を増やすのに効果的に働くと思われる。


 マイナス面として気になるのはやはりDiablo IIIになる。制作中の噂が絶えないこのゲームだが、もし本家Blizzardから制作発表が行われて、その後比較的短期間の間にベータテストから発売という流れになった場合。Diablo IIIの出来が良いという条件はもちろん有るが、現在のHGLのユーザーの多くはそこにDiablo IIIの幻影を求めて集まった人が多いと思われるので、そういった人が一斉に”本家”のDiablo IIIの方に移行してしまうという危険性を持っている。その意味ではFSSもあまり悠長にはやっていられないという状況にあると言えるだろう。


 今後は積極的にHGLの情報を追う事は無いと思うが、折角一時は注目していたゲームなので、人気復活!といった声を聞きたいものだとは考えている。再度ゲームを購入したいという気持ちにさせてくれるような成功を陰ながら期待したい。

「地獄の沙汰も課金次第」への1件のフィードバック

  1. Seiryu_PGD: OchaTaro
    βから参加し、そのままUSサバで課金して遊んでいる者です。
    現在は、1.3bでバグも逐一克服されており
    楽しめていますよ。キャラが24だったか
    かなりたくさん作れますしいろんな育成が楽しめる。
    1.3では共有倉庫が実装されましたし、
    wikiや2ch本スレ、stuck styleなどの翻訳情報サイトも充実しているので、英語が苦手でも十分楽しめるコンテンツかと思ってます

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です