隣のコンソールは売れて見える

 最近当サイトの掲示板でも議論されているPCゲームと海賊版に関わる話題について。発端となったのは4Gamer.netの「なぜPCゲームは売れなくなったのか?」と題する記事なので、取り合えずはこちらを読んでおいてもらった方が良いだろう。海賊版によるPCゲームへのダメージについては、過去にもidやEpic等のトップが語っており、最近ではPCオンリーでの発売となったCrysisにおいても「今後はもっと真剣に対策を考えたい」とその被害を訴えている。
 ただし一つ整理しておきたいのだが、こういった事態をもって「今後各製作会社はPCゲームを作らなくなる」という見方が確実視されているのではなくて、そういう風に考える人もいるというレベルである。私自身もそういった話題は時折海外のインタビュー等で目にするが、ニュアンスとしては「PCゲームを作らなくなる」のではなくて、「PCオンリーというゲームを作らなくなる」という方が正確と思う。


 マルチプラットフォーム化されるゲームが続々と増えている原因の第一は、高額化した制作費により単体のプラットフォームでは採算を取るのが難しいからである。一つ前の世代で言えばPS2位普及したマシンがないと単体での発売は困難となっている。当然PCゲームの世界でも制作費の高騰は同じだから、PCのみでの発売となると売り上げを相当伸ばさないとペイ出来ない。そこに加えて海賊版という問題を解決しないとならないので、よりPC単体での販売は厳しくなる。よってこれまでPCをメインにゲームを作り続けて来たidやEpicの様な会社も、「PCのみでの販売は困難」という考えに変りつつあるという事である。


 今回は海賊版に関する話題になるが、PCゲームと一口に言ってもいろいろと有るのでFPS系に絞っての話としたい。ただ本題の海賊版関連の話は後回しにして、前半では「多くのFPSがPC向けには作られなくなる可能性はあるのか?」について分析してみる。海賊版を許し難い行為と考えるメーカーは、「そんな事をされるのならばPCを捨てて、違法コピーが比較的やり難くなるコンソールに絞って売るようにしよう」と考えるのかどうかである。


 数値に特に意味は無い単なる一例として、コンソールで60万本・PCで40万本の合計100万本売ったFPSが有るとしよう。しかしメーカーの調べでは、その他に20万本程度はPC版の海賊版が流通しているという結論に達した。そこでこの会社は続編を作るに当たって考えた。「20万本分は全くの損失であり、これを次回は全てコンソールでの発売に変えれば、更に20万本をプラスして合計120万本の売り上げが見込める」。ちょっと考えれば判る事だが、これは推論として成り立っていない。


 第一に「不正コピーを出来ないようにすれば、彼等は正規品を購入するしかない」という理屈だが、残念ながら事はそういう風には運ばない。もしプレイしたいと考えるゲームがタダで入手出来ないのならば、彼等は他のタダでプレイ可能なゲームを探すだけである。「どうしてもそのゲームを遊びたいのでしょうがない」と考えて実際に買ってくれる人間の割合はそれ程多くはならない。


 第二にこれまでちゃんとお金を出して買ってくれた人の分は計算出来るのか?となると、これも計算は成り立たない。何故ならこれは「PC版を買っていた全てのユーザーが、今度はコンソール版を買ってくれる」という前提の下での見込みだからだ。買ってくれるパターンは2つ。既にXbox 360かPS3を所持しているので買ってくれるか、そのゲームの為にコンソール込みで新規に買ってくれるユーザーである。しかし実際には「そのゲームがPCでは出ないのであれば対応したマシンごと買う」というケースは稀であり、PCのFPSのファンはあくまでもPC市場に固執するプレイヤーの割合が高いと思われる。
 そうなると40万本という売り上げをそっくりそのまま期待する訳には行かず、仮に1/4がコンソール版を買ってくれたとして、売り上げは40万本から10万本に落ちてしまう。要はコンソールにターゲットを移しても、それに応じてPCゲーマーが一緒にコンソール側にやって来てゲームを買ってくれないと、コンソール市場での激しい顧客の奪い合いという戦いに勝たないとならなくなる。


 これを解決する方法としては「申し合わせて一斉に移行する」というのが一つ考えられる。例えば現在のFPS市場の売り上げの半分程度を占める規模の会社達が、連名で「今日を境にPCゲームのリリースを止めます」とでも宣言すれば、PCしか持っていないユーザーにコンソールを買わせる大きな理由付けとなるだろう。ただこれは現実的にはちょっと想像し難い。
 「徐々に大手の会社がコンソールへと移って行くようになると、コンソールへの移動は歯止めが掛けられなくなる」いう説も有るが、個人的にはこれには反対の意見を持っている。逆に他の会社がいなくなると、別の会社にチャンスが広がると考えるからだ。例えばPCで100万本を売った会社が、続編ではコンソールへと移行したとしよう。この100万人がそっくりそのまま続編ではコンソール版を購入するのならば、単にPCゲーム市場の縮小となる。しかし上でも書いたようにその様な極端な移動が起こる可能性は非常に低い。仮に二割がコンソール版に流れたとして、残りの80万本分はPC市場に残された潜在的な購買見込みとなる訳で、その浮いた数を奪うというチャンスが生まれる。あくまでも例だがid softwareやEpicの様な大手がPCから撤退した場合、これまで同社のFPSを購入していたFPSゲーマーで且つコンソール版は買わないでPCに留まるという人達を、他の製作会社が獲得可能になるという意味。一緒にコンソールへと完全移行して、そこでこれまでのPC版の売り上げ以上の成果をコンソール版の売り上げに上乗せする事を狙うよりも、浮いたFPSファンを狙ってPC版での売上増加を狙う方が確実性が高いと考える会社が出て来るはずである。


 つまりPCのFPSゲーマーが「コンソールを買うしかない」と判断する基準が、「現在の売り上げの50%に当たる数のゲームが完全にコンソールに移行したら」辺りだったとして、一気にその50%を減らすような動きが無い限りはその空いた隙間に別の制作会社が入って来るので、PCの市場が加速的に縮小するとは思えない。


 この説への反論としては、「現在メジャーなゲームを制作している会社がコンソールへと移動しだしたら、残ったメーカーではFPSのゲーマーを満足させるだけの質を持ったゲームを供給する事は出来なくなる。よってユーザーはコンソールへと移らざるを得なくなるはずだ」という意見がある。しかし現在大手の会社はコンソール版とのマルチプラットフォームがほとんどとなり、そのゲームデザインはあまり従来のFPSファンには歓迎されていない状況だし、コンソールのみの発売となればその傾向には更に拍車が掛かるようになる。よって移行した会社が大きな所でも、それがPCのFPSのファンに対して大きな影響を与えるかとなると疑問。また原則的にパッドでの操作になるという問題も有り、これも大きな移行への障害となるはずだ。
 むしろ東欧の様なPCに重点を置いた会社からのゲームが支持されるようになり、グラフィックス的には大手に劣る物であっても歓迎されて売れるようになるという可能性は十分に有り得る。これまでは大作の陰に隠れていたのが目立つようになるし、応援の意味で購入する人も増えるだろう。そして売り上げが伸びれば次はもっと予算を貰えて制作が可能になる。だから大手が一つ、二つ去った所で、急激にPCのFPSのクオリティが落ち込むとは思えない。



 製作用のエンジンもPC版が無くなるのとは逆の方向に動きつつある。以前はPC版を別に作るのに手間が掛かるのと、エンジンをライセンスしている際にはPCで出すのに別に使用料を払わないとならないという障壁が存在しており、その為にコストの割には売り上げが見込めないと判断されれば、(XboxとPS2での発売となり)PC版は出ないという風になっていた。しかし現在は高騰する制作費の回収の為に売り上げ本数をとにかく上げないとならず、それは単体のプラットフォームでは難しいので複数のマシンで平行して発売されるケースが多くなっている。
 それを受けて現在大きなシェアを誇るEpicのUnreal Engine 3を始めとして、ValveのSource、MonolithのJupiter EX、idのTech 5等、軒並Xbox 360, PS3, PCの3機種に対応したエンジンになっている。また制作の手間についても、中間機種用に作成してからそれぞれの機種にコンバートした後の各機種別の最適化作業の手間も大幅に軽減されて来ている。ライセンス料は普通公開されないのでよくは分らないが、現在トップのUE3が発売機種数に関係なく一律のライセンス形態となっているので、対抗する各エンジンも競争の為にそれに倣うと考えられ、その意味からもあえてPC版を発売しないという意味合いはむしろ薄くなって来ている。PC版を追加した際に考えられる損失としては、コンソールとPCを両方持っている人がPCの海賊版を手に入れてコンソール版を買わなくなってしまうというケースだが、PCの必要環境が高いFPSにおいてはその危険度は相対的に低い部類となる。


 もう一つ、私は2009-10年辺りに掛けて、逆にPCを重視したFPSゲームが増えて来るという予測を持っている。現在FPSゲームの新たな市場として伸びているXbox 360は、次の機種に変るまでハードウェアの仕様が変らない。よって持っているポテンシャルを引き出すという努力は続くが、新しいテクノロジーの導入は原理的に不可能である。一方のPCはCPUやビデオカードの進化によりリアルタイムで新しい技術が加わって来るので、Xbox 360には対応していない3D技術やプログラミング技法が次々に導入される。その結果、時間の経過に連れてグラフィックス等のゲームの進化はPCに偏るようになって行く。Xbox 360の方はそのままのハード性能を維持するだけなので、次の機種の発売時に一気にそれを飛躍させるしかない。
 するとどうなるかと言うと、次世代Xboxに向けてゲームの発売を考える場合、発売近くになってそのハードやソフト開発環境を研究するよりも、常に最新の3D技術を使っているPCにおいて成果を上げておいた方が有利と考える会社が増える。具体的には、仮に2011年に新Xbox用のゲームを出す計画として、その機種は使用するハードのテクノロジーから、Shader ModelやDirectXに新しいバージョンの物が用意されるのは確実。そしてそれ等はPCのゲーム界には先行して導入済のテクノロジーとなる。ならばその前の2009年にリリースのゲームにて、Xbox 360版とは異なりPC版にはその世界で使われている最新技術を採用・研究する事で、会社内の製作チームが次回作の新Xboxで出すゲームへと対応するのもスムーズに行えるようになる。逆にずっとXbox 360のテクノロジー止まりのゲームしか出していない場合、新Xboxの開発には遅れを取る事になる。Xbox 360の立ち上げにコンソールでの実績が無かったInfinity WardがCall of Duty 2で成功したように、PCでの最新テクノロジーがそのまま新Xboxに利用出来るという現在の環境だと、常に最新テクノロジーが導入されるPCに強い会社でないと立ち上げ時に不利となる。よって多くの大手の会社は試験的な意味でも、最新テクノロジーを導入したXbox 360版よりも美しいグラフィックスのPC版を同時にリリースしてくる可能性が高いと考えている。



 PC市場における海賊版の横行には各社頭を悩ませてはいるが、PC市場から完全撤退してそれと同じだけの売り上げをコンソールの方で達成するというのは、今PCで遊んでいるFPSゲーマーが「移行してもちゃんと代わりにコンソール版を買ってくれる」という環境が実現しないと難しい。(具体的には多数のPCゲーマーがXbox 360かPS3を同時に所持するような状況)。完全に撤退してコンソール一本に絞るというのは、PCユーザーがどれだけ追随してくれるのかが見えないだけに危険な賭けともなってくるからだ。そうなると海賊版を防ぐ方法を考えつつ、PC版の発売を継続するという方針の方が現実的な路線となる。


 以下続編に続く
 

「隣のコンソールは売れて見える」への1件のフィードバック

  1. Seiryu_PGD: KAR
    日本のXBOX360での話ですがHDD無しでフラッシュメモリ256MB(俗に言うメモリーカード)を
    バンドルしたXbox360が3月に発売されます。(3万以下)オフラインだけなら低コストで、
    次世代までは同じ環境で遊べる・・・というメリットは手に出来ます。(HDDが欲しければ後から買えば良いわけですし)
    …と言ってもPCゲームにここまで固執している人が買うという方向には向きにくいのが日本の市場で、
    PCゲーム市場が駄目ならすっぱり諦める/DOOM1などの過去に回帰する人の方が多いかも知れません。
    マルチプラットフォームでPCから逃げようとしている海外ゲームメーカーもGame WatchでのGame Developers Conference 2008
    特集記事でも市場は一種の飽和状態とされており、そんな中で、注目しているのはカジュアルゲームの類で
    カジュアルゲームの方が比率が高くなる可能性はあると思います。仮に、そう言う方向になればグラフィックを勝負の柱の一つに
    立てるゲームは、現状以上に各プラットフォームのニーズにあった味付けをしないと駄目かも知れません。

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